「人間の証明」①アンダマン海に浮かぶ楽園

10年前、年末年始をタイ南部トランの街で過ごしていた。
タイでは西暦の正月はそれほど盛大に祝う訳ではない。バンコクプーケットパタヤなどの外国人の多い地域を除いては。
一地方都市に過ぎないトランも静かな正月を迎えていた。
トランでの滞在期間も長くなり、そろそろ飽きが来ていた。
他の都市に移動する前に、どうせならトラン諸島のどこかの島にでも行っておこう。
そう思い立った僕はトラン駅前にある数件のトラベルエージェントを訪ねることにした。

一軒のトラベルエージェントの前を通りかかると同時に、若い女性3人に囲まれた。
ハロー♪トランへようこそ!
どこに行きたいの?お手伝いするわよ!
半ば強引だが、無邪気な笑顔に悪い気はしなかった。
聞くだけ聞いてみよう。
そう思った僕はどこかトラン諸島でお薦めの島はあるか尋ねる事にした。
店内に入ると眼鏡を掛けた中年の女性が笑顔で迎えてくれた。
1番お薦めの島は何処ですか?
僕がそう尋ねると。
彼女はクラダン島ねと言った。
リボン島、ムック島、ンガイ島、クラダン島と順にパクメンピアから最も遠い島。アンダマン海に浮かぶ楽園とパンフレットには紹介されている。
数件のホテルや宿しかない。隣のビーチにはジャンルを越え無ければ行けないとの事。
秘境の様な島だ。
幸いにもバンガローも一泊1000バーツも超えないものもあるとの事。
予算の関係もあるので、取り敢えず3泊予約する事にした。
翌日早朝、トラベルエージェントでミニバンに乗りパクメンピアまで向う。
欧米人のカップルと僕だけだ。
パクメンピアでは他のトラベルエージェントを通して予約した欧米人達も合流して来た。
小さなボートは直ぐに一杯になった。
先ずは陸地に近いムック島からンガイ島に乗客を下ろすらしい。
半数がムック島で下船した。
続いてまた半数近くがンガイ島で降りた。
どうやらクラダン島まで行くのは僕ひとりようだ。
貸し切り状態で僕ひとりを乗せたボートはクラダン島ヘ。
明らかに今までの海の色とは異なる。透明度が増していた。
僕が予約したバンガロー前の浅瀬に到着した。桟橋などは無い。
靴を脱ぎ裸足で浅瀬に降りた。
僕が泊まる宿は数棟のバンガローとレストラン兼レセプションがあるこじんまりとした宿だった。
周りは森林に囲まれそれぞれのバンガローはビーチから数十メートルも離れていない。
目の前がビーチだ。
バンガローのチェアで優雅に読書をしている男女。ビーチで貝を拾っている初老の男女。
こんな森林で囲まれた静かなビーチは今まで見たことがない。
初めて見る光景だった。f:id:superhero999:20200429174616j:plain